MoMAで開催されたケーテ・コルヴィッツの回顧展
今年の夏にニューヨーク近代美術館(Museum of Modern Art)でケーテ・コルヴィッツ(Käthe Kollwitz)の回顧展を見た。
コルヴィッツは1867年に東プロイセンのケーニヒスベルク(現在のロシア領カリーニングラード)で生まれ、ドローイングや版画、彫刻を中心にベルリンで活躍したドイツ人の女性アーティストだ。近代美術のフェミニズム史において重要なアーティストでもある。
2度の世界大戦に揺れる時代の女性や労働者階級の人間を中心のテーマに据え、男性が支配する美術界おいて前例のない美学やビジョンを打ち出した。ドイツ最高の版画家の一人となるまでその地位を確立する。
現在の情勢に対する怒りや悲しみに奇妙なほど呼応するコルヴィッツの作品は、サイズは小さいが、一度見たら忘れられない。
自身の生々しい感情を追求して生まれたコルヴィッツのイメージは、抽象画の誕生の時代には馴染まない表現であった。社会主義者でありベルリンの労働者階級が住む地域で暮らしたコルヴィッツは、進歩的なベルリン分離派美術運動のメンバーではあったが、エリート階級の美術界とは距離を置き、貧しい人々を治療する医師であった夫と暮らした。その診療所からも多くのモチーフを見いだしたという。やがてナチスから逃れてきた亡命者により南アフリカに作品が紹介され、アパルトヘイト時代の南アフリカの左派アーティストにも影響を与えたという。
第一次世界大戦中に息子を亡くしたことをきっかけに、喪に服すという主題を生涯探求し続ける。
この作品では16世紀に農民を率いた指揮者である女性、ブラック・アンナが描かれている。受動的ではない農民の女性の強さを表現した作品は、美術史上ほとんど例がないという。
ギロチンの周りで跳ね回る群衆が描かれている。コルヴィッツはこれをチャールズ・ディケンズの小説「二都物語」(1859年)に基づいて描いた。この小説はフランス革命を舞台にしており、人々が君主制を嘲笑した革命歌「カルマニョール」を歌い踊る場面が含まれる。コルヴィッツはプロレタリア階級の情熱と権力を讃えるこの場面をドイツの町の通りに置き換えた。
革命を起こすため鎌を研ぐ、農民の老婆を描いた作品。
この作品では、女性(アーティスト自身)が右手で少年の首をつかんでいる。彼女の左手は少年の小さな指を握りしめ、さらに自分の体に絡みつく。少年の腰に巻き付いた骸骨の腕は、死神が二人を引き離そうとしている腕である。
コルヴィッツは、ドイツ国内外で名声が高まった後、ナチスによる迫害を受けた。夫の病死後、息子に続いて孫も戦場で失い、その数年後にコルヴィッツも亡くなる。
「私の芸術には目的がある。そのことに私は満足している。」
「人々が混乱し助けを必要としている時代に、私は効果をもたらしたい。」
展示にあったコルヴィッツの言葉だ。彼女が描いた人間の表情やしぐさから、そのビジョンがありありと伝わってきた。