安藤忠雄の建築、草間彌生、小沢剛の作品などによる「ヴァレーギャラリー」杉本博司の多様な作品群を本格的に鑑賞できる「杉本博司ギャラリー 時の回廊」
ベネッセホールディングスはベネッセハウスの開館30周年となる今年、新たに2つのアート施設を2022年3月12日(土)にオープンする。ベネッセアートサイト直島における安藤忠雄の9つ目の建築、草間彌生、小沢剛の作品などによる「ヴァレーギャラリー」、そしてベネッセハウスパークにおける杉本博司氏の作品空間をさらに拡大・整備した「杉本博司ギャラリー時の回廊」である。
ヴァレーギャラリー / Valley Gallery
山間に建つ新たな安藤建築とランドスケープ、草間彌生の《ナルシスの庭》と小沢剛の《スラグブッダ88》は、ベネッセハウスと地中美術館の間にある李禹煥美術館向かいの山間に位置する。祠をイメージした安藤忠雄設計の半屋外建築とその周辺の屋外空間一帯を含めたヴァレーギャラリーの整備により、自然の中に点在するベネッセハウスの各棟や美術館施設が繋がり、鑑賞者にエリア全体のランドスケープの体感を促している。建物内外では草間彌生の《ナルシスの庭》が大規模に展開され、2006年より池の横に恒久展示されている小沢剛の《スラグブッダ88 -豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏》も一部改変され自然・建築・アートの共鳴をより深く体験できる展示となっている。設計した安藤忠雄はこのプロジェクトについて、次のように述べている。
プロジェクトは福武總一郎氏らと共に、敷地を確認することから始まった。そして決まったのが李禹煥美術館のある倉浦に向かう谷筋の一角、春先にはヤマツツジに覆われる斜面に囲われた美しい場所。建物は地形に応じて30度に開いた台形平面を持ち、コンクリートの壁による二重構造を成す建物は12mm厚の鉄板屋根で覆われる。鉄板にはシフトや切込みといった幾何学的操作により開口が穿たれており、建物内部に雨や風、光といった自然の呼吸をそのままに取り入れる。小さくとも結晶のような強度をもつ空間をつくろうと考えた。
杉本博司ギャラリー 時の回廊 Hiroshi Sugimoto Gallery: Time Corridors
杉本博司の多様な作品群を継続的かつ本格的に鑑賞・体感できる世界唯一のギャラリーとなっている「杉本博司ギャラリー 時の回廊」は、ベネッセハウスパークにおける杉本博司作品の展示空間を周辺のラウンジやボードルームを屋外にまで拡げ、杉本の多様な作品群を継続的かつ本格的に鑑賞できる世界的にも他に例をみないギャラリーで、ベネッセアートサイト直島の黎明期より様々な形でアート計画に参加してきた杉本の当地との関わりを背景に既存の《松林図》や《観念の形 003オンデュロイド:平均曲率が0でない定数となる回転面》などに、「ジオラマ」や「Opticks」といった主要な写真シリーズや、ヴェニス、ヴェルサイユ、京都で展示され人々を魅了してきた硝子の茶室《聞鳥庵》が新たに加わった。またラウンジおよびボードルームは杉本が主宰する新素材研究所のデザインによりカフェ機能も備えて一新された。
「時の回廊」について杉本博司は次のように語っている。
新設の硝子の茶室「聞鳥庵」を臨むカフェラウンジの改修にあたり、極力安藤建築のディーテールを保全した上でその空間に置かれる家具の彫刻化に挑みたいと思う。それらは私が最近発見した3種類の特殊な樹によるものである。
神代杉の根方 : 神代杉は縄文杉とも呼ばれる樹木の半化石化したものを指す。この神代杉は紀元前466年に東北の活火山「鳥海山」が大爆発し、その時の地震によって大規模な山体崩壊が起こり原生林の大木の一つだったこの巨大杉が地中に埋もれて眠ること2400年あまり、最近になって発掘されたもの。埋没時の樹齢を1600年と推定すると4000年前に発芽した杉ということになり、まさに神代の時代に生をうけている。
屋久杉の幹 : 過酷な環境で育った屋久杉は大木が多く、樹齢1000年以上の樹が屋久杉と呼ばれ近年世界自然遺産に登録され伐採は禁止された。この屋久杉は樹齢1500年程、大分以前に伐採されたもので樹齢により内部が空洞化したものである。
栃の樹の側 : 栃木県の名の由来となる栃の樹はこの地方で伐採され樹齢は推定600年。白く波打つ木肌が美しい。
この3種の樹木は様々な鳥の声を聴きながら時を渡ってきたに違いなく、神代杉の4000年、屋久杉の1500年、栃の樹の600年、そして今、ここに杉本ギャラリーカフェラウンジにおける彫刻テーブルとして、時間の経過そのものを体現している。「時の回廊」では時間を遡る感覚を体感できる。巨木は我が国において、神の依代として信仰の対象であり、神代杉は縄文人によって、屋久杉は弥生人によって、栃の木は室町期の人々によって拝まれていたのだと考えいる。私はこの樹々達を「三種の神樹」と名付けた。
「ベネッセアートサイト直島」について
「ベネッセアートサイト直島」は、瀬戸内海の直島、豊島、犬島を舞台にベネッセホールディングス、福武財団が展開しているアート活動の総称。アートを媒介とした地域づくりに三十数年にわたって取り組み、地域に暮らす人々とともに新しい価値を生み出し、「Benesse=よく生きる」を世界へ発信している。ベネッセアートサイト直島はSDGsの実現に向けて策定したベネッセグループの「サステナビリティビジョン」においても、重点活動の1つとして地域との価値共創の中核を担っている。