現代美術が観測した個人と社会の距離感

国立新美術館が企画展「遠距離現在 Universal / Remote」を2024年3月6日(水)から6月3日(月)まで開催する。リモートでつながる利便性に隠された現実や世界観のゆらぎ、コロナ禍中に構想されたデジタル社会を映し出す。国立新美術館では5年ぶりとなる現代美術のグループ展。

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展覧会タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、資本と情報が世界規模で移動する今世紀の状況を踏まえたもの。監視システムの過剰や精密なテクノロジーのもたらす滑稽さ、また人間の深い孤独を感じさせる作品群は、今の時代、あるいはポストコロナ時代の世界と真摯に向き合っているようにも見える。本展では「Pan- の規模で拡大し続ける社会」と「リモート化する個人」の2つを軸に、このような社会的条件が形成されてきた今世紀の社会の在り方に取り組んできた8名と1組の作品を紹介。アジア、欧米、北欧など国際的に活躍しているアーティストたちの作品を通じて、ポストパンデミック社会と個人の在り方を鑑賞者とともに読み解いていく。

出展作家・作品

井田大介 / Daisuke Ida

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1987年鳥取県生まれ、東京都在住。2015年に東京藝術大学大学院美術研究科(彫刻専攻)を、2016年にMADアートプラクティクスを修了。近年の主な個展に「SYNOPTES」(Tezukayama Gallery、大阪、2023年)「あなたが鳴らしても鐘は止まない」(デカメロン、東京、2021-22年)、「Photo Sculpture」(3331 Arts Chiyoda、2018年)など。東京ビエンナーレ(2021年)や「日本国憲法典(part2)」(無人島プロダクション、東京、2023年)などの芸術祭やグループ展にも参加している。主な受賞歴に第19回岡本太郎現代芸術賞入賞(2016年)など。

現代社会に生きる人々の不安や欲望を、メタファーを通して「彫刻」した映像作品
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井田大介《誰が為に鐘は鳴る》2021年
© Daisuke Ida, courtesy of the artist

徐冰(シュ・ビン) / Xu Bing
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Xu Bing Studio

1955年中国、重慶生まれ。北京とNY を拠点に活動。1987年に北京の中央美術学院版画専攻の修士課程を修了。近年の主な個展に「Xu Bing: Gravitational Arena」(浦東美術館、上海、2022-24年)、「Xu One: Xu Bing」(ブルックリン美術館、2019-20年)など。2015年にアメリカ国務省芸術勲章を受章したほか、第14回福岡アジア文化賞(2003年)などを受賞している。実在しない「偽漢字」や漢字のように見える英文「新英文書法」の創作、絵文字と記号のみで書かれた小説「地書」、廃材を用いたインスタレーション作品などで知られている。

国際的に高い評価を得ている現代美術の巨匠による初の映像作品
監視カメラが映す現実から壮大な虚構を生む
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徐冰《とんぼの眼》2017年
© Xu Bing Studio, courtesy of the artist

トレヴァー・パグレン / Trevor Paglen
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Photo by Axel Dupeux

1974年アメリカ、メリーランド州生まれ、ベルリンとニューヨークを拠点に活動。アート・インスティテュート・オブ・シカゴで修士号を、カリフォルニア大学バークレー校で地理学の博士号を取得。近年の主な個展に「Trevor Paglen: Hide the Real. Show the False」(ノイエ・ベルリナー・クンストフェライン、ベルリン、2023年)、「Trevor Paglen: You’ve Just Been F*cked by PSYOPS」(ペース・ギャラリー、ニューヨーク、2023年)など。東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域内で開催されているプロジェクト「Don't Follow the Wind」(2015年~)に参加している。主な受賞歴にマッカーサー・フェローシップ(2017年)、ナム・ジュン・パイク・アート・センター賞(2018年)など。

“見えない” 問題を浮き彫りにするアーティスト
私たちを取り巻く、テクノロジーと権力の相互メカニズムが可視化される
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トレヴァー・パグレン《米国家安全保障局(NSA) が盗聴している光ファイバーケーブルの上陸地点、米国ニューヨーク州マスティックビーチ》2015年
© Trevor Paglen, courtesy of the artist; Altman Siegel, San Francisco; Pace Gallery, New York

ヒト・シュタイエル / Hito Steyerl
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Photo by Leon Kahane

1966年ドイツ、ミュンヘン生まれ、ベルリン在住。日本映画大学とミュンヘンテレビ映画大学でドキュメンタリー映画を学び、2003年にウィーン芸術アカデミーで哲学の博士号を取得した。
近年の主な個展に「ヒト・シュタイエル:壊れた窓の街」(ライプツィヒ美術館、2023年)、「ヒト・シュタイエル:データの海」(国立近現代美術館、ソウル、2022年)など。日本では「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」(2018年、水戸芸術館 現代美術ギャラリー)などのグループ展に参加。2017年に出版された『デューティー・フリー・アート:課されるものなき芸術 星を覆う内戦時代のアート』は2021年に邦訳版が出版されている(フィルムアート社)。Art Review の「Power100」ランキングでは2013年より現在まで10年連続入選、2017年には1位に選ばれた。

ハイブランドBALENCIAGA と、労働者のためのBELANCIEGE
現代の政治と社会を「バレンシアガ方式」で読み解く
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ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ヒト・シュタイエル、ミロス・トラキロヴィチの共同制作《ミッション完了:ベランシージ》2019年
展示風景:「ヒト・シュタイエル」ノイエ・ベルリナー・クンストフェライン(n.b.k.)、2019年
Courtesy the artists; Neuer Berliner Kunstverein, Berlin; Andrew Kreps Gallery, New York; Esther Schipper, Berlin
Photo © Neuer Berliner Kunstverein (n.b.k.) / Jens Ziehe

地主麻衣子 / Maiko Jinushi
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Photo by marisa shimamoto

1984年神奈川県生まれ、東京都在住。2010年に多摩美術大学大学院美術研究科を修了。2019年から2020年までヤン・ファン・エイク・アカデミーのレジデンスプログラムに参加。主な個展に「MAMプロジェクト031:地主麻衣子」(森美術館、2023年)、「親密さと距離」(Centre A、バンクーバー、2023年)、「ブレイン・シンフォニー」(旧横田医院、鳥取、2020年/ Art Center Ongoing、東京、2020年)など。「越後妻有 大地の芸術祭 2022」や「And again {I waitfor collision}」(KINGS Artist-Run: Side Gallery、メルボルン、2019年)など国内外の芸術祭やグループ展に参加している。

「心の恋人」の痕跡を辿りながら、日本社会の深層を浮き彫りにする映像作品
忘れたら、見なかったことになる?
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地主麻衣子《遠いデュエット》2016年
© Maiko Jinushi, courtesy of HAGIWARA PROJECTS

ティナ・エングホフ / Tina Enghoff
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Photo by Kent Klich

1957年デンマーク生まれ、コペンハーゲン在住。ニューヨークのインターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー (ICP) で写真を学ぶ。
本展に出品される〈心当たりあるご親族へ〉プロジェクトは2003年の個展(ニコライ・クンストハル、コペンハーゲン)にて発表された。その他近年の主な個展に「Displaced」(デンマーク王立図書館 ブラック・ダイアモンド、コペンハーゲン、2022年/シシミウト美術館、グリーンランド、2021年)、「移住者の記録」(フォトグラフィスク・センター、コペンハーゲン、2013年/ Gallery Tegen2、ストックホルム、2013年)など。スウェーデンのArbetets Museum が主催するドキュメンタリー写真賞を2018年に受賞した。

孤独死の現場から私たちに問いかける
社会保障が充実していれば、幸せになれるのか
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ティナ・エングホフ《心当たりあるご親族へ――男性、1954年生まれ、自宅にて死去、2003年2月14日発見》2004年
© Tina Enghoff, courtesy of the artist

チャ・ジェミン / Jeamin Cha
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Photo by Jungwoo Park

1986年韓国生まれ、ソウル在住。2010年に韓国芸術総合学校美術学部を卒業後、2011年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで修士号を取得。近年の主な個展に「Troubleshooting Mind I, II, III」(Kadist、サンフランシスコ、 2020年)、「Love Bomb」(サムユク・ビルディング、ソウル、2018年)など。「第14回光州ビエンナーレ」(2023年)などの芸術祭のほか映画祭にも参加しており、第69回オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ、2023年)では審査員特別賞を、第47回DMZ 国際ドキュメンタリー映画祭(韓国、2022年)では特別賞を受賞した。

世界中をつなぐ通信のケーブルを地道につなぐ作業員の“手”
小さな個人の手仕事から、大きな世界を見通す
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チャ・ジェミン《迷宮とクロマキー》2013年
© Jeamin Cha, courtesy of the artist

エヴァン・ロス / Evan Roth

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1978年アメリカ・ミシガン州生まれ、ベルリンを拠点に活動。メリーランド大学で建築学を学び、パーソンズ・スクール・オブ・デザインでデザイン&テクノロジーを専攻しMFAを取得。本展に出品される《あなたが生まれてから》はジュ・ド・ポーム国立美術館(パリ、2020年)やMOCAジャクソンヴィル(フロリダ、2019年)においても披露された。その他近年の主な個展に「Skyscapes: Berlin-Mitte」(/rosa、ベルリン、2023年)、「Red Lines with Landscapes:Portugal」(フィデリダデ・アルテ、リスボン、2020年)など。目の動きだけで絵が描ける装置《The EyeWriter》の開発プロジェクトに携わり、第14回文化庁メディア芸術祭(2010年)で優秀賞を獲得した。

アートをハッキングするアーティスト
無作為に並べられた大量の画像があらわす現代の肖像画
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エヴァン・ロス《あなたが生まれてから》2023年、展示風景:「あなたが生まれてから」ジャクソンビル現代美術館、2019年
© Evan Roth, courtesy of the MOCA Jacksonville
Photo by Doug Eng

木浦奈津子 / Natsuko Kiura

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1985年鹿児島県生まれ、鹿児島県在住。2010年に尾道市立大学大学院美術研究科油画専攻を修了。近年の主な個展に「目の前をよぎる」(Takashi Somemiya Gallery、東京、2022年)、「表面をなぞる」(EUREKA、福岡、2022年)など。2019年に第45回鹿児島市春の新人賞を受賞し、受賞記念展として「うみとこうえんと、」(鹿児島市立美術館、2021年)が開催された。このほか「VOCA展2022 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」(上野の森美術館、2022年)などのグループ展に参加している。

変わる世界と変わらない風景 あなたの日常はどこにありますか?
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木浦奈津子《こうえん》2021年
© Natsuko Kiura, courtesy of the artist
Photo © EUREKA

「遠距離現在 Universal / Remote」開催概要

会期2024年3月6日(水) ~ 6月3日(月)
休館日毎週火曜日 ※4月30日(火)は開館
時間10:00~18:00(毎週金・土曜日20:00まで)
会場国立新美術館 企画展示室1E
料金一般1,500円 大学生1,000円
主催国立新美術館
URLhttp://tinyurl.com/mwaanu5y