コダマシーン(金澤韻+増井辰一郎)がキュレーションを手がけた18組の作家のパブリックアート

三菱地所が東京駅日本橋口前で進めていた東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」の第一弾「常盤橋タワー」が2021年7月にオープンした。「常盤橋タワー」は地上38階、高さ212mと東京駅周辺で最も高いオフィスタワーとなる。 そのオフィスエリア、地下1階~3階の商業エリアでコダマシーン(金澤韻+増井辰一郎)がキュレーションを手がけた18組の作家のパブリックアートが楽しめる。 

コダマシーンは2018年に上海で設立されたアートとデザインの企画・開発ユニットだ。金澤は現代美術キュレーターとして国内外でこれまで50以上の展覧会に携わり、増井は建築・デザイン・現代美術の分野で設計及びマネジメントを行ってきた。今回はコロナ禍での上海と東京をまたいだプロジェクトという事情もあり東京チームメンバーとして、数多くの空間デザインを手がける中原崇志と、執筆、展示などを通してデザインを伝える仕事を展開する角尾舞が参加している。

「常盤橋タワー」に作品が設置された18組の作家は、かつて江戸城へ向かう表玄関である常盤橋御門があったTOKYO TORCH街区に息衝く日本の伝統文化を大切にしながらも未来志向でありつつ、さらに世代を超えて世界に開かれるビジョンを示している。「伝統の中に光る奇想の系譜」をコンセプトに据え、異次元へ魂を運んでくれるようなものにフォーカスしたと金澤は語る。

 通常パブリックアートの設置においては、すでに一般的に評価が確立されている作家が選定されることが定番と言っても差し支えないが、本企画では次世代を担う若手や海外作家が選定され、常盤橋の新しい顔に相応しい作品を見せる。作品は陶、漆、日本画など、長い時間をかけて醸成された創作技術の上に、自然のエネルギーを感じられるようなものを多数取り入れたと言う。

ここでは一般入場可能エリアで見られる7作品を中心に紹介したい。

adf-web-magazine-rozendaal

ラファエル・ローゼンダール《into Time 20 08 13》(2021)

地下3階の来客用エレベーターホールにはラファエル・ローゼンダールの作品が設置されている。プログラミング上でランダムに生成される画像をWebブラウザ上で作品として展開するローゼンダール。本作は2020年8月13日にウェブサイトをクリックして作った画像4枚をレンチキュラープリントで重ねている。作家本人は平面のこの作品をgifのように簡易なアニメーションのように捉えている。

adf-web-magazine-kigi

KIGI《マワレ!セカイ》(2021)とコダマシーンの増井辰一郎、金澤韻

グラフィックデザイナーとして活躍している植原亮輔と渡邉良重のユニット。オフィスロビーから商業エリアに向かう通路を江戸独楽をモチーフにした幾何学的な作品で彩る。通路の向こう側にある楽しい空間を予感させる作品だ。

adf-web-magazine-yokoyama

横山裕一《ふろば》(2021)

2階通路には国内外で人気が高い「ネオ漫画」を生み出す横山裕一の作品が。常盤橋が銭湯発祥の地という説から、様々な人々が時代や国境を超えて風呂場に集っている様子を描く。横山ならではの詳細まで描き込んでいるとても楽しい絵なのでぜひ近くまで寄って鑑賞してほしい。

3階の「MY Shokudo」は「MY Shokudo Hall & Kitchen」「MY Shokudo Cafe」「MY Shokudo Sakaba」「MY Shokudo Dining」の4つのエリアに分かれている。オフィスエリア就業者と一般客も利用できる食堂だ(施設利用可能時間は下記を参照)。

adf-web-magazine-momo

吉野もも《Kami》シリーズ(2021)

「MY Shokudo Cafe」に設置されている吉野ももの作品は、視覚の錯覚を利用した錯視図形やだまし絵のようなトリックで、折り紙を絵画として鮮やかに描いている。まるでそこに立体が存在しているような感覚を覚える作品だ。

adf-web-magazine-books

「MY Shokudo Cafe」 に7か所設置されているディスプレイエリアもコダマシーンが書籍、アイテムをキュレーションしている。時間軸を過去から現在、そして未来へ移しながら、空間をオフィスのデスクトップから街へ、さらには宇宙まで移動して想像を豊かに広げるためのインスピレーションに満ちたラインアップになっているので、見学の際にはぜひこちらも併せて利用したい。

adf-web-magazine-suzuki

鈴木啓太 / Product Design Center《ISHIGAKI》(2021)

「MY Shokudo Sakaba」に設置されている鈴木啓太の作品。プロダクトデザイナーの鈴木啓太は江戸城の表玄関に属するエリアだった常盤橋に由来する石垣を漆、銀箔、アクリルを使い表現している。

adf-web-magazine-moriyama

森山茜《スペクトラム》(2021)

「MY Shokudo Dining」には建築を学び、スウェーデンでテキスタイルデザインの道へ進んだ森山茜の作品が設置されている。やわらかいもので建築を作れないか?という発想から作品を生み出している。《スペクトラム》(2021)は、ナイロンメッシュを京都の職人がグラデーションに染め、名古屋で縫製職人が立体化している。作品に照明は直接当てずに、極自然に光がそこに留まり、12.4mというスケールに対して、空間に佇む様子のバランスが非常にうまく調和している作品だ。

adf-web-magazine-schemata

スキーマ建築計画《ベンチ / テーブル / スツール for TOKYO TORCH Park》(2021)

「常盤橋タワー」足元には約3,000平方メートルにも及ぶ広場「TOKYO TORCH Park」が整備された。パーク内にはスキーマ建築計画がデザインしたストリートファニチャーが設置されている。コンクリートのベンチ、テーブル、スツールは一般の利用者はその重さから気軽には動かせないものの、イベント開催時など管理側が空間を広く使用したい際にはハンドリフトで位置を移動することが可能だ。2027年度竣工予定の「Torch Tower」のオープニングの際には広場も7,000平方メートルへ拡張されることも見越してのデザインとなる。

adf-web-magazine-koi

「TOKYO TORCH Park」内の新潟県小千谷市との協業による「錦鯉が泳ぐ池」

コロナ禍において東京駅周辺の丸の内、大手町にオフィスを置く多くの企業がリモートワークの運用を実施するなか、周辺オフィスビル内のテナントが相次いで撤退していく昨今。「常盤タワー」がオフィス空間をどう維持・発展させ社会の活力を高めていけるのか、高い注目を集めている。 

なお「常盤橋タワー」の商業ゾーン「TOKYO TORCH Terrace」と大規模広場「TOKYO TORCH Park」は21年7月21日(水)には開業予定だったが4度目となる緊急事態宣言を受けて延期となった。

MY Shokudo Hall & Kitchen INFO

Open9:0021:00MISO SOUP BAR11:00〜なくなり次第終了)
休館日土・日曜、祝日(※イベント開催時はOPEN
備考3階「MY Shokudo Hall & Kitchen」は818()にグランドオープン、終日開放。
MY Shokudo Cafe」「MY Shokudo Sakaba」「MY Shokudo Dining」の3エリアは1730分までは就業者専用。