時代を超える美術思考が新訳で登場

20世紀美術の巨匠パウル・クレーが1924年イエナ美術展での講演に際して執筆していた草稿を新訳したパウル・クレーの『イエナ講演草稿』が2022年5月8日に万象堂から発行された。クレーの考える「造形のなりたち」と「線・明暗階調・色彩」の芸術思考が展開されている古典。バウハウスでの美術教育と絵画制作が充実していた時期であり、造形への思考と方法論が余すところなく語られている。

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「作品はそれ自体が独自の言葉で語っている」

印象的な言葉からはじまるクレーのイエナ講演は開催された1924年から100年近く経った今でも刺激的であり、本質的である。独自の絵画様式で比類無き表現作品を生み出してきた20世紀を代表する画家、パウル・クレーは、その全盛期には多くの支持とそして多くの無理解があった孤高の画家でもある。線描、明暗階調、豊かな色彩、そして記号や文字などを絵画に織り交ぜながら、鑑賞者の想像力を喚起させる作品を多く描いてきた。本書『イエナ講演草稿』は、1924年にドイツ・イエナの美術協会が主催した展覧会において、自身の作品を前にして来場者に講演した記録で、クレーは講演に際して台本のようなノートを記述していた。それを書籍化した『Ueber die moderne Kunst』(Benteli)を底本として、本書は訳出している。書籍『Ueber die moderne Kunst』はクレーが記述したノートの順序を一部入れ替えて編集されていたが、本書ではその順番を復元したバージョンを、附録として収録しています。『イエナ講演の草稿』を深く読み込みたい読者には興味深いバージョンとなっている。

見えているものを生き生きと再現するだけではなく、隠されていたものも見えるように

いつまでも色あせない美術論として、時代や国境を超えて読み続けられている古典。今回の新訳ではできる限り平易な日本語をこころがけ、美術を専門にする人はもちろん、クレーの絵画が好きなすべての人に届けられる。

パウル・クレー(Paul Klee)

画家。表現主義、キュビズム、シュールレアリスムなどの影響を受けながら独自の表現を確立した、20世紀を代表する芸術家の一人。1879年、スイス・ベルン近郊のミュンヘンブーフゼーにて生まれる。幼少時代より美術と音楽に親しみ、19歳(1898年)でドイツ・ミュンヘンに移住、美術家を志した。カンディンスキーをはじめ多くの芸術家との交流を経て美術への探究と実践を深め、1921年から1931年までバウハウスで、1931年から1933年までデュッセルドルフ・アカデミーで美術教育に携わる。2度の世界大戦を経験し、1933年にスイスへ移住。多くの傑作を残し、1940年にスイス・ロカルノにて60歳で死去。世界中で人気の高い画家のひとりであり、日本でも幾度となく大規模な展覧会が開催されている。

『イエナ講演草稿』概要

著者パウル・クレー
訳者青岳那苑
価格990円
発行2022年5月8日