王凯凡 / Kaifan Wang 個展「ホイッスリングデューン」がベルリンGNYPギャラリーで開催
まだまだ正月休みで眠い街ベルリン、ドイツの正月も思ったより店や商業施設が閉まっていた。ギャラリーも冬休みとあって、あまり開いているところがない中、今年初めての展覧会、GNYP Galleryへ足を運んだ。
以前私は同ギャラリーのKate Pincus-Whitneyの作品について書かせてもらった。少し風変わりな作品を置いていることからアーティストでもある執筆者の興味を惹く。少し自分の作品傾向や嗜好に傾倒しているのかもしれないが。
今回は若手作家のKaifan Wang(1996年生まれ、中国フフホト出身)”Whistling dune”の絵画を鑑賞してきた。同ギャラリーでのデビューソロだそうだ。生まれ故郷のフフホトは内モンゴル自治区の首都で政治、経済、教育、文化の中心都市だ。その土地の自然の豊かさの影響もWangの作品に顕著に現れているのだろう。彼は北京で現代芸術と出会い、2016年、更なる勉学に励むため渡独する。
2022年にBerlin University of the Artsを卒業し、期待の新人アーティストと言っても過言ではないだろう。Wangの作品をみた瞬間に浮かんだ言葉が、”新しい”とか”みたことない”という言葉だった。その新しい感じとは一体何なのか?
ひろゆき風に”それってあなたの感想ですよね?”で述べていくつもりだが、抽象画はみな、似たり寄ったりで同じような絵に見えてしまうことが多々ある。Wangの作品にはマンネリが少なく、何か西洋と東洋の要素が混じり合った作品である。
自分が子供の時に観た、アニメ映画AKIRA(監督大友克洋作1988年)の最後の場面を思い出した。
肉体の塊だとか、肉がぶつかり合って出来上がった風景のような、とても奇妙だが興味をそそるような光景で過去に恐れおののいたことを思い出した。人間の肉体が抽象画の中にボコボコと見えてくるような感じがする。
それはまるで自然の風景やそれを見ているときに起こる感覚と近い。影や地形のせいで人間の顔や体の部位に見えてくるという現象だ。“I sneeze on the grass(2022, oil, oil stick, acrylic on canvas 160x120cm)”はどうしても人が横たわっているように見えた。でも、きっとそうじゃないからずっと観てしまう。
Wangの特徴的な色使いも彼の作品にオリジナリティーを加える。少し渋みのある褪せた色はアジアを思い出させると言ってもいいかもしれない。Near the shoreは4つのパネルを重ねて一枚の絵に仕立てあげている。これは花鳥山水図を参考にしているのだろう。所々に見られる美術史の引用は日本人の私からすると懐かしく、そしてまた新しい。誰かがこう言ったのを思い出した。”今この世の中、新しいものを生み出すのは難しい。新しいアイデアはほとんど出てしまった。今ある、オリジナリティーとは何かの組み合わせでしか生み出せない”と。
Wangのインスタグラムを見ていても,2,3年前に描かれた絵と2022年に出展した作風は全然違う。ここ数年で自分のスタイルを確立したと言えよう。人の世界観や感覚は毎日のdoingやresearchで磨かれ、updateされていくのだ。この短い数年で彼の作品は垢抜けたものになった。
Wangの作品は少しづつ一枚一枚のテーマが違っている。絵のリソースや参照の引き出しやオープンさもコンテンポラリー。それでいて展覧会全体が”whistling dune"として彼の等身大の自画像や故郷と真摯に向き合った結果が、この展覧会にあった。