ヘラルボニーの「アップサイクルアートトートバックプロジェクト」
JR東京駅で2020年11月、17日間限定で開催された 「アップサイクルアートミュージアム」。知的障害のあるアーティストによる作品のプロダクト化を手がける福祉実験ユニット「ヘラルボニー」が東京駅の商業施設開発や空間プロデュースを行う「鉄道会館」、ベンチャー企業に対して出資や協業を推進する「JR東日本スタートアップ」とタッグを組み、実施されたイベントだ。
ターポリン生地に印刷されたアートはどれも想像力を書き立てられるものばかり。それぞれ作品横に掲示されたアーティスト紹介、作品の特徴を読みながらそのデザインの背景を想像するのも楽しい展示会となっていた。今回は、ヘラルボニー代表の松田氏、ストラテジックプランナーの西野氏に企画の経緯や展示の工夫についてお聞きした。
Q:本イベント開催の経緯を教えていただけますか?
A:ヘラルボニーの事業がJR東日本スタートアッププログラムに採択され、その実証実験として、駅前の仮囲いでターポリン生地に印刷したアートを掲出、掲出後に洗浄・裁断しトートバッグにするという「アップサイクルアートトートバックプロジェクト」を考案し、JR高輪ゲートウェイ駅にて掲出いたしました。この企画の第二弾として、JR東京駅構内での開催に至ったのです。
Q:サイズも大きく、展示にも工夫が必要かと思いますが、展示における工夫はなにかありますか?
A: アート作品をそのままターポリンに印刷するのではなく、近くからみても遠くから見てもアートにみえるように網点加工を施す工夫を行っています。この加工は、アートライフブランド「HERALBONY」のブランディングを担当しているデザインチーム「Paper Parade Inc.」の方の技術により、可能となっています。
Q:「循環型ミュージアム」という発想はどこから来たのでしょうか?
A:もともと私たちは、建設現場の仮囲いに、アート作品を印刷し、透明のシールを掲出するプロジェクト「全日本仮囲いアートミュージアム」を行っていました。皆さんに喜んでいただける一方、透明のシールを剥がすと毎回それがゴミとなってしまい、もったいないという思いも。そんな思いから、「街を彩ったアートが、掲出後も個人を彩るアートとして活用される。それと同時に、知的障害のあるアーティストへ、トートバッグの販売価格の一部がバックされ彼らの生活、活動資金の一助となる」そんな循環型の仕組みを構築できないだろうか?と考えたのがきっかけでした。
Q:御社が「サステナビリティ 」に着目したきっかけは?
A:弊社の取締役に佐々木春樹というファッションデザイナーが就任したことが大きな契機となりました。佐々木は、林業に従事する父親の家庭で育ち「循環」の大切さについてよく聞かされて育ったそうです。しかし、彼が若い頃からずっと生きてきたファッション業界では、父親から教わったこととは矛盾する、消費を繰り返すサイクルが当たり前だった。そんななか関わったプロジェクトを通じて、彼自身も循環型のものづくり推進に力を注ぎたい、その思いが強くなり、彼の思いに共感した私たちとともに実現させようという話になったのです。
Q:今後このプロジェクトの様子がみられるところはありますか?
A: 東京駅での展示はすでに終了していますが、2021年の1月12日まで、TBSにて開催されいてる「地球を笑顔にするMUSEUM」でも同じくアート作品がトートバッグにアップサイクルされる企画を実施しています。実物を見てみたいと思った方は屋外のアートミュージアムへ訪れてみてはいただきたいです。
「思想を提示するデザインが生まれていくことで、お客様がデザインを選ぶのではなく、デザインがお客様を選ぶ時代がやってくると思っている」と語る松田氏。常に先をみて、既存の考えにとらわれない新たな取り組みを行うヘラルボニーの活動に、今後も注目したい。