指示書をテーマにミュージアムにおける芸術作品の再演(再現)を考察
美術出版社は、東京藝術大学大学美術館にて開催された「再演―指示とその手順」展の記録集を2023年2⽉1⽇(水)に刊行する。展覧会において芸術作品はどのように再演(再現)されるのか。そこに存在する指示書とは何なのか。現代芸術の新たなメディアともいえる指示書をテーマに、ミュージアムにおける芸術作品の再演(再現)について、アーティストや研究者らが考察する。
書誌概要
様々な表現形態を許容する現代の芸術作品は、もの(オブジェクト)の同一性を拠り所とした再展示ではなく、再現の手順、仕様や規定が記された指示書によって再演(再現)が繰り返される。それは静的な物質としての作品を保存するのではなく、動的な場を保存し、体験そのものを再現する方向へと進んでいくのかもしれない。本書はそのような現代の芸術作品を再演(再展示)する際に参照される指示書や記録写真、映像を取り上げ、そこに含まれる手順や仕様、指示内容によって作品はどのように再現されるのか、作品の同一性をいかに継承していくのかについて問うものである。
第Ⅰ章では、絵画の模本や工芸の手板、彫刻の試作や建築の模型など、美術教育のなかで技法や意匠がどのように継承されていったのかを概観。第Ⅱ章では、インスタレーションやバイオメディア・アートのように、再演のための指示書を必要とする作品の成立条件や規制について考察し、第Ⅲ章では、将来的に新しい媒体や環境への移行が必要なデジタルデータを用いた作品や、一回性をもつインタラクティブな作品の再演について、真正性とは何かという観点から保存や継承方法を探る。また、材木を使った大規模なインスタレーションを展開し、ヴェニス・ビエンナーレ、ドクメンタをはじめとする大規模な美術展に参加しながら活動を続けるアーティストの川俣正への聞き取り調査では、1979年に大学卒業課題として制作した《自画像》の保存や再展示に関してヒアリングし、作家が展示した当時とその後の展示では展示方法が違っていた点や、どこまで再現するかという作家の考えも窺える興味深い内容となっている。最後の章では、再演は何をもって同一な作品(もしくは同一な体験)であることを保証するのか、展覧会における指示書のあり方について考えるきっかけを提示している。
平諭一郎
1982年生まれ。専門は芸術の保存・継承。現在、東京藝術大学未来創造継承センター特任准教授、芸術保存継承研究会主宰。創造の過程や周辺、実践知といった様々な芸術資源から新たな表現が持続的に生まれる、循環型のクリエイティヴなアーカイヴを推進し、研究プロジェクトや展覧会の企画、論考、作品制作を行う。主な企画に、2018年「芸術の保存・修復―未来への遺産」展、2019年「ヒトは描くときに何を見ているか」展、2021年「再演―指示とその手順」展(ともに東京藝術大学大学美術館)。
『再演―指示とその手順』書誌情報
編者 | 平諭一郎 |
発売日 | 2023年2月1日(水) |
定価 | 本体2500円+税 |
仕様 | A5変形、上製、ジャケット / 192ページ |