スタジオジブリのはじまりを振り返る展覧会「『アニメージュとジブリ展』

『アニメージュとジブリ展』一冊の雑誌からジブリは始まった」が2021415日から55日まで、東京・松屋銀座 8Fのイベントスクエアにて開催中だ。1978年に創刊され、今年で43周年を迎える日本初の本格的なアニメーション専門誌『アニメージュ』を創刊当時から中心となり支えた編集者だったのが、スタジオジブリの代表取締役プロデューサー鈴木敏夫である。二代目編集長を務めた鈴木敏夫の編集者としての側面にフォーカスし、彼が編集した198911月号までの12年弱にわたる『アニメージュ』を軸に、誌面連載から始まった「風の谷のナウシカ」の映画製作とそれをきっかけに創立されたスタジオジブリ、そして「天空の城ラピュタ」までの軌跡を貴重な資料とともに辿る。

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2016年に六本木ヒルズ展望台で開催された「ジブリの大博覧会」においても作品制作の現場や裏側が垣間見える資料を多数出品したこともまだ記憶に新しいスタジオジブリだが、本展ではその創設前まで遡り、鈴木敏夫が宮崎駿と出会った『アニメージュ』編集部在籍時からの関連資料を通して、表には見えず記録や資料に残りにくい鈴木のプロデュース術を読み解く試みとなっている。

「宇宙戦艦ヤマト」の大ヒットが社会現象となった1970年代、それに続くポストヤマトの時代においてアニメは子どもが観るもの“という固定概念からの解放と脱却、幅広い年齢層へリーチできるコンテンツづくりへとアニメ業界が変革していく移行期に若手の評論家育成と、それまで取り上げられる事のなかった作品制作に関わる演出、脚本、美術、音響、撮影、編集などの作り手と業界人にハイライトを当て、作品のキャストやスタッフの育成にも力を注いだ稀有なメディア、『アニメージュ』。その創刊号の表紙はもちろん「宇宙戦艦ヤマト」だった。創刊号7万部はわずか3日で完売し、その後のアニメブームを牽引する存在となる。

その誌面づくりにおいて鈴木敏夫が最初から決めていた編集方針の一つに作家主義がある。作家主義の雑誌として彼の根底にイメージとしてあったのは、フランスの映画批評家アンドレ・バザンが初代編集長を務めた映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』である。『カイエ・デュ・シネマ』がゴダールやトリュフォーなどに誌面を提供し、ヌーヴェルヴァーグの母体になったように、バザンの提唱した「作家主義」を鈴木敏夫はまだ一般的には名前も知られていなかった宮崎駿を『アニメージュ』誌上で31ページにもわたる大特集を組むことで極端とも言えるこの主義を体現してみせたのだ。そして宮崎駿や押井守らをはじめとする『アニメージュ』に発掘され、読者に紹介され、世に出た作り手が長きにわたってアニメ文化を支えていったのだった。

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また鈴木敏夫の編集者としての読者とのコミュニケーション方針は、編集部からのワンウェイではなく、インタラクティブな「場」を作り設けることだったという。当時は誌面で編集部と読者、また読者同士の交流が行われており、活発に意見を交わし合う「場」はファンダムへ繋がり合う心地良さと刺激を提供していた。2021年において作り手とファンはSNSでリアルタイムに繋がることが可能だが作品自体の情報入手も難しい状況だった当時、メディアやジャーナリズムが作品や作り手のみならずファンとの懸け橋となり業界全体の裾野を広げていき、今の日本を代表するポップカルチャーともいえるアニメ文化の発展に影響を与えたその視座の高さやプロデュース手腕、そしてその情熱に改めて感じ入る。

そのこだわりの誌面づくりには大前提として、アニメ作品のビジュアルを重視する姿勢があった。会場入口には歴代表紙のモビールが展示されており、「風の谷のナウシカ」「となりのトトロ」等のスタジオジブリ作品に加え、『アニメージュ』がそのテレビ放送前から繰り返し誌面に取り上げることで作品の大ヒットに大きく寄与した「機動戦士ガンダム」をはじめ、「AKIRA」「ルパン三世」「超時空要塞マクロス」が表紙を飾っている。

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展示後半ではラピュタの飛翔シーンの立体作品や、1982年に原作マンガが『アニメージュ』にて連載開始、84年に同誌が映画化を手掛けた「風の谷のナウシカ」のレイアウト、美術ボード、原画や今回が初公開となるセル画などの資料が並び、庵野秀明が担当した巨神兵の原画も出品されており一際注目を集めていた。また、映画「シン・ゴジラ」でキャラクターデザインや造形監修を務め、過去のスタジオジブリ関連の展覧会で数々の雛形制作・造形監修を行ってきた造形家・竹谷隆之が監修・制作を手掛ける「風の谷のナウシカ」に登場する「風使いの腐海装束」や腐海に沈む巨神兵の立体展示はぜひ会場でご覧いただくことをお勧めしたい。

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『アニメージュ』と鈴木敏夫の辿った歴史は日本のアニメ史そのものである。そのプロデュース術が昨今の日本文化や作品制作にどのような影響を与えたのかを突きつけられる展覧会である。

「アニメージュとジブリ展 」一冊の雑誌からジブリは始まった 情報

会期2021415日(木)~55日(水・祝)
会場東京都 松屋銀座8階イベントスクエア
開場時間10:3019:30 ※全日日時指定制
URLhttps://animage-ghibli.jp/