モビリティの未来を示す新たなショールーム
世界的な自動車部品メーカー Yanfeng社の安亭工場(上海)内にある1992年建設のレンガ造りの3階建てビル1階部分が、自動車用内外装製品を展示するショールームに改装された。手掛けたのは、上海のクリエイティブデザインスタジオ、Studio DOTCOF。創業から85年、人々がリラックスできるモビリティ空間を追求してきたYanfengが見据える、モビリティの未来が体感できる空間が完成した。
動く風景、動きの中の風景
本プロジェクトでは、Yanfengのブランドスローガンである「Experience in motion」に倣って、「Scenery in Motion(動く風景)」が体験できる空間を目指した。
ショールーム空間は大きく内部と外部の2つの制御ロジックの組み合わせによって構築されている。外部では、敷地や周辺環境の特徴的な要素が厳選され、変容する空間体験に組み込まれるような振り付けが施されている。建物の西側は、工場の正面玄関と作業場、そして普段から人の流れが多いカフェテリアを結ぶ主要な歩行者通路となる細い道路に面している。建物の西側壁面を中空コンクリートブロックで塞ぎ、来場者が必ず目にする道の分岐点に「Experience in motion」のロゴが際立つ水場を設置。シンプルな外観にさりげなく景観要素をプラスしている。午後には、西からの日差しがこの中空ブロック壁を透過し、屋内に動く光と影のパターンを作り出す。
敷地内の樹木や芝生は、窓の開口部の配置や大きさを変えることで最大限に生かされ、内部の空間体験に組み込まれている。北側の駐車場、北東側の展示車両の物流経路など、敷地周辺の露出させたくない要素は、窓を密閉するなどの方法で遮蔽している。元の建物の、1階と2階の間の床スラブは撤去され、2階にあった天窓は再び開けられた。天窓から1階の展示ホールに太陽光が降り注ぎ、室内に自然な明るさをもたらしている。
屋内は、動きのある連続した空間づくりを重視している。この空間は、大きな端と小さな端を持つくさび形として設計され、空間の遠近感が高められている。その中を歩くと、方向性の傾向を感じとることができる。この方向性の流れには明確な目的地があり、それは通過してきた外部の風景だったり、あるいは空間内の展示物そのものであったりする。前後の風景や展示物が連続して流れるような設計となっているのである。
2階のオフィスの動線は、エントランスのハーフハイトの傾斜壁に隠され、緩やかなスロープを経て階段室へと導かれる。ショールームへの動線は、エントランスの左側に配置されている。ショールームの来訪者は、レンガの中空壁と天窓から差し込む日差しを浴びながら、ハーフハイトの傾斜壁によって北へ導かれ、暗いスロープを通って南へ戻り、中庭に入っていく。流れは中庭の空間を南下しながら暗いギャラリーへと続き、そこで何度か折り返し、最終的には南側のギャラリーに到達する。そこには、再び明るい空間が広がり、横に長い窓から南側の芝生と太陽の光が室内に取り込まれる。人々はそこで見学を終え、会議室やミーティングルーム、屋外テラスエリアなどでゆっくりと過ごすことができる。
スタジオDOTCOFについて
Studio DOTCOFは、2015年にXi Chenによって上海で設立された建築インテリアデザイン事務所。クリエイティブなデザインスタジオとして、すべてのプロジェクトを通じて、人と空間の関係の可能性を探求している。手掛けるプロジェクトのクライアントや環境、建設条件や予算など、異なるあらゆる状況に応じたユニークなソリューションを提案している。