建築スタジオLink-Arc LLCのデザインによるアーバンガーデンのような学校
中国・深圳に新たに建設された南山外国語学校(NFLS)は、54,000㎡の敷地に教室、図書館、体育館、屋内プール、講堂、教員用宿舎、食堂、運動場などの設備を備えた小中一貫校である。中国最大のテクノロジー企業や国際企業が拠点を置く南山は、深圳ハイテク工業団地の本拠地であり、ここ10年間の再開発を経て、高密度の都市集落から高層ビルが建ち並ぶ近代都市へと変貌を遂げている。高層ビルの谷間に建設されたNFLSの新校舎は、近年の開発によって均衡を失いかけていた街を再生させ、長きにわたって進められてきた再開発を完成させる最後のピースとして重要な役割を担っていた。
戦略1:垂直 vs. 水平
プロジェクトの主目的のひとつが、生徒が自然を身近に感じられる環境で学べることであった。周囲に建ち並ぶ高層ビルが「垂直」の圧力を生むことで、周りの自然を取り込むことは困難を極めた。そこで、先生や生徒が自然と触れ合うことができる機会を重要視したデザインチームは、水平に広がる低層の構造を考案した。
NFLSのキャンパスは、建物とオープンスペースの境目を意図的に曖昧にすることで、独立空間や半独立空間、そしてオープンなグリーンスペースなどが水平に展開する直線型のハイブリッド構造となっている。低層であることで、高層ビルが密集する地帯に開放的なオアシスを形成している。生徒たちは、屋内と屋外をスムーズに移動することができ、自然と触れ合いながらキャンパスライフを送ることが可能となる。
キャンパス内は、既存の地形に沿って、南東の角から北西の角にかけて緩やかに上がっていくスロープ状の構造になっている。体育館やプール、食堂、講堂などの大型の施設は全てこのスロープに組み込まれており、その屋上にプラットフォームが形成され、教室や遊び場となっている。これにより、教室などが垂直方向ではなく水平方向に展開されるのである。
戦略2:組み込まれた庭園
教室などが水平に展開されることで、建築に新たな可能性がいくつも生まれる。敷地内に広がる建物には6つの庭が構築され、学びにも遊びにも使える、半プライベートな独立空間を提供している。それぞれの庭にはユニークな名前がつけられている。「入口の庭」「集会の庭」「小学校の庭」「中学校の庭」「スポーツの庭」「レクリエーションの庭」と名付けられた庭は、それぞれの利用目的に適した建築的アプローチがなされており、空間テーマに沿ったデザインとなっている。1階の天井はオレンジに塗られ、キャンパスのオープンスペースに守られた区画を構成する一方で統一感をもたらしている。オレンジの天井は、すべてのスペースに繋がっており、雨の多い深圳の気候にも適応した構造となっている。
教室は、所々で違い棚のようにずらして積み上げられ、それによって生まれた外テラスが換気のための通路を形成したり、すべての教室に自然光と外への眺望を提供している。なめらかに配置された教室の間には、その空間の使用目的に合ったいくつもの屋外スペースが織り込まれている。特別学校と中学校の校庭は、その延長線上で閉じられた空間となり、そこが小学校の校庭となっている。その先には図書館があり、逆から見れば、図書館の延長線上に開かれた運動スペースが広がっているとも言える。
戦略3:薄いボリュームと進化したエコシステム
本プロジェクトは、機能ごとに建物を区画する一般的な学校建築とは一線を画している。機能をまとめて配置することよりも、自然光と眺望を最大限確保できる教室であることを優先することで、区画ごとの多様性が広がり、学びだけでなくレクリエーションや交流のための多様なスペースを生み出す事が可能となった。
Link-Arcは、高温多湿である深圳の気候に適した構造にするため、研究と考察を重ねた。階段状に積まれた教室の構造は、室内に自然光をもたらし、廊下の片側にだけ教室を配置することで自然換気も機能させている。北側の建物のファサードは、高性能ガラスや自動開閉システム窓を使用。東向きのファサードは太陽光を利用できる構造に。また、南と西向きのファサードには、穿孔したアルミのスクリーンと庇を適用している。
雨水の流出を抑制するため、共有スペースは透水性のレンガで舗装し、屋上には排水性の高いセダムを植えている。セダムには、屋根の温度上昇を抑える働きもある。屋上のソーラーパネルは年間2,000MWhのクリーンエネルギーを生み出す。これらの環境に配慮したデザインと技術的な機能により、本プロジェクトは、義務教育の機関として華南地方で初めてGBELの三つ星の認可を受けている。
スタジオLink-Arc LLCについて
スタジオLink-Arc LLCは、ニューヨークを拠点に、上海や深圳にも建築家やデザイナーを擁する国際的な建築デザイン事務所。多分野にまたがるプロジェクトを手掛け、都市計画、建築、空間デザイン、ランドスケープデザインなどでその手腕を発揮している。多様なバックグラウンドと視野により得た豊富な知識とリソース、そして知性を活用して、様々なスケールの革新的なプロジェクトに臨んでいる。