家族の在り方を再考しつつ社会を変えていく
研究者でありデザイナーでもあるシディアン・ワン率いる画期的なプロジェクト「New Domesticity(新しい家庭)」がAZアワード2024のソーシャルグッド部門を受賞した。このプロジェクトはシングルマザー家庭のためのシェアハウスで、学生作品部門でもAzure A+アワード・オブ・メリット賞を受賞した。
本プロジェクトは低所得のシングルマザーが直面する社会経済的課題の増大に対応するため考案・実施。東京で共同生活を再定義し、未利用の都市スペースに焦点を当て、シングルマザーが共同生活を送りながら小規模事業を運営し、経済的安定と社会的支援を促進できる共同住宅として実現した。
シェアキッチンだけじゃない
日本のシングルマザーは大きな苦難に直面しており、その50%近くが家計のやりくりに苦労していると言われている。「New Domesticity」では都市住宅を再定義する共同生活モデルを導入し、この問題に取り組んでいる。シングルマザーが家事や育児、生活環境、小規模ビジネスなどを共有できる共同管理スペースを活用することで、経済的負担や社会的孤立を軽減する支援的コミュニティを醸成することを目指している。
「共有の最大の意義は、スペースや施設を共有することではなく、責任を共有することにある」とワンは強調するように、この哲学はシングルマザーが自分たちの生活を管理できるようにし、強靭で相互に結びついたコミュニティを構築することを目的とした本プロジェクトの礎石となっている。
東京の都市空間を取り戻す
ワンのデザインアプローチには、空き家、ビルとビルの間の空きスペース、公共施設の使われていない部分など、東京で十分に活用されていないスペースを再利用し、シングルマザーのための活気ある多機能ハブに変えることも含まれている。ハブは主にコワーキングスペース/ローカルビジネススペースと組み合わされた共同生活スペースで、プライベートと公共の境界を曖昧にし、シングルマザーを孤立させず、都市構造に溶け込ませる役割も担っている。
伝統的な家族構成への挑戦
本プロジェクトは日本の文化的規範、特に核家族の理想化にも挑戦している。シングルマザーがしばしば蔑まされ疎外される社会において、多様な家族構成を包摂し、適応し、支援する家庭生活の新しいビジョンを提案している。家族のあり方を再考し、都市空間がこうした家族にどのように貢献できるかを考えることで、このプロジェクトから広範な社会の変革を目指している。
共同アプローチと 「スーツケース」
本プロジェクトはこれらのスペースに住むシングルマザー、非政府組織(NGO)や役所など、様々なステークホルダーが関わるものである。特に設計と建設のプロセスにエンドユーザーに参加してもらうことで、共同体意識が育まれ、居住空間が住民の実際のニーズを満たすことに成功している。デザイン作業と並行して、母親たちの生協のメンバーがプロジェクトを売り込むために必要なものを携行するためのスーツケースを提供したり、より多くのシングルマザーを巻き込み、他の人たちからの支援を集めることを目指したウェブサイトも作成された。
持続可能な都市生活のプロトタイプ
本プロジェクトは当面の住宅ニーズに対応するだけでなく、持続可能な都市開発の青写真も提供している。共同生活、コミュニティ参加、持続可能な素材に重点を置いており、革新的で社会的責任のあるデザインを体現。環境の持続可能性をを実現しながら、社会から疎外されたコミュニティのニーズに応えるために都市空間をどのように再構築できるかを示している。
シディアン・ワン(Xidian Wang)
ケンブリッジとロンドンを拠点に活動するデザイナー兼研究者。フェミニスト建築デザイン、マイノリティの表現、空間正義にフォーカスした研究を行っている。学際的なアプローチやメディアに強い関心がある。