レトロで未来的デザインの新店舗でカヌック社ブランドの文化と遺産を伝える
1970年以来カナダで手作りの冬用コートを製造しているカヌック社は、モントリオールのレイチェルストリートにある本社から遠く離れたソーホーの中心地グリーンストリートにある歴史的な6階建ての建物に、建築事務所のアトリエ・バルダが手がけた初の海外ブティックをオープンさせた。
レセプションホール、プロダクトショールーム、フィッティングルームの3つのスペースで構成される新店舗を担当したアトリエ・バルダは、このプロジェクトに取り組むに際し、1960~70年代のモントリオールを象徴するデザイン要素など、カヌーク社の歴史に残る理想をさりげなく取り入れた感覚的体験を通じて、ブランドの型に嵌まらない姿勢や、先見性を表現しようとした。
私たちの提案は、カヌークの歴史と現在の進化を再解釈し、誇り高い遺産を垣間見せ、それに関連付けることに重点を置きました。そして、この新しい店舗は、ブランドのユニークな文化のエッセンスを伝える重要な役割を担っているのです。
ギャラリーのようなセッティング
店内に入ると天井高14フィートの開放的なホールが従来の店舗空間の常識を覆す。 店舗とギャラリーの境界をなくしミニマムなデザインにすることでホールの雰囲気を一新した。半透明の樹脂で作られた机はこの部屋で唯一の家具であり、祭壇のようなものでもあり、カヌーク社の精神に従って顧客の前でコートを敷き畳むという、ブランドの長年の儀式に対応するものである。アトリエ・バルダは、歴史的な引用とこの店のニューヨークという環境を取り入れた要素を融合させ、ギャラリーのような雰囲気の空間をデザインした。
体験型トランジション
レセプションホールから製品ショールームへは高さ7フィートのポータルからアクセスし、両側の天井高14フィートとは対照的な圧迫感を与えている。ポータルを通過するとレセプションホールから響いていた音が突然消え、より静かで明るく均一な照明の空間が現れる。ショーウィンドウの白いアーチ型天井に反射して上方から照らされる隠れたコーブ照明が無限に広がるような影のない空間全体に豊かな拡散光を返す。この明るさと無限性は、冬のホワイトアウトと無重力の感覚を呼び起こし、空間の物理的な限界を曖昧にして視線を地上階とそこにある一見浮遊する製品や細かいディテールに向けさせる。
ショールームの奥にはフィッティングルームにつながる高さ3mのポータルがあり、ショールーム側の待合室はその湾曲によって示される。青いカーテンは広大なショールームとその奥にある曖昧な雰囲気を隔て演劇を連想させるとともに、幕が上がるのを待つ宙吊りの状態として響く。カーテンの向こう側にはオリジナルの建物の要素を取り入れた曲線の廊下があり、アトリエ・バルダはそこに現代的な要素を加えることで、明確な終わりのない非常に演劇的でドラマチックな空間を作り上げた。照明が廊下の壁にコントラストを与え、青いカーテンがフィッティングルームの配置を隠している。
アトリエ・バルダについて
2013年に設立されたアトリエ・バルダは「すべてのクライアントとすべての新しいプロジェクトは、独自のアプローチを指示する」というコンセプトのもと、その方法論を確立している建築事務所。それぞれの提案はプロジェクトの中核となるニーズや文脈にきめ細かく対応しながら既成概念にとらわれず、望ましい結果を強化、再定義、向上させるために行われている。カナダのケベック州モントリオールを拠点とするアトリエ・バルダは国境を越えて複数の国際的なコラボレーションを展開し、革新的な作品は雰囲気や実験性に重点を置き、カナダ、アメリカ、ヨーロッパで数々のアワードを受賞している。