スロベニアのリピカ・スタッド・ファームのホテルリノベーション
スロベニアの「リピカ・スタッド・ファーム」は、石灰岩台地と牧草地が広がる美しい自然の中に佇む、リピッツァナーという種馬の飼育場である。400年以上の歴史を誇るこの牧場は、長い間、観光地としても人気を博していた。その潮流を受け、1970年代には大型の宿泊施設が多く建設され、牧場内の「ホテル マエストーソ」はそのひとつであった。
このホテルは、飼育場に最も近いリピカ内最大の宿泊施設である。周辺の環境に対して比較的アグレッシブなデザインの外観は、建てられた時代特有の建築スタイルによるものであり、建物を囲む道など周囲の穏やかな景観の雑音ともなっている。緑の並木の間を走る白いフェンスの線と、放牧された白馬の群れが続くのどかな風景が、ホテル前の駐車場で突然途切れ、そこに圧倒的な存在感のホテルが突如現れる。
スロベニアの建築事務所Enotaが手掛けたホテルのリノベーションの最重要課題は、建物の存在感をできる限り抑えることであった。この課題の解決には、まず建物の「かさ」を減らす計画が導入され、ファサードに付加された建築要素を取り除くことから始められた。さらに、軽い荷重付加の構造でできたバルコニーを新設することで建物の表情を統一した。新しい膜構造がホテル全体とプールエリアを覆い、ランドスケープとの間の緩衝材となっている。ここで生まれる光と影の交錯と、外壁に絡ませた植物が周囲の緑地との繋がりを形成するような錯覚を生む効果で、巨大な建物の「かさ」を視覚的に減らしている。唐突な存在感を打ち消すことで、景観に溶け込む新しい特徴のある建物に生まれ変わらせている。
インテリアとプールのリノベーションは、馬小屋を現代的に解釈したデザインとなっている。共有スペースには、折り畳み式のパーティションを設置し、あらゆるオケージョンで活用できるようにフレキシブルな空間となっている。
コンクリートむき出しの状態まで解体された構造は、最小限の建築要素を付加するにとどめ、インテリアスペースに温かい雰囲気をもたらしている。照明や家具のデザインには、馬小屋で使用される道具が採り入れられ、ホテルのユニークな立地を特徴づける空間となっている。
Enotaについて
Enotaは、1998年、スロベニアのリュブリャナに設立された建築デザイン事務所。都市問題の解決と建築の進化を可能にする、総合的なアプローチを基本とした現代的かつ批評的な建築手法の確立を目指している。設立パートナーのDean LahとMilan Tomacの2人の建築家が率いるEnotaは、設立当初から今に至るまで、50人以上の建築家の創造プラットフォームとなりながら、常に進化してきた。研究に裏付けされた環境デザインに注力しており、研究機関の調査や新技術との共業により効果的で革新的なソリューションを生み出している。その結果、すべてのプロジェクトで、建築と環境との間に強い関係性を育むことに成功している。