スタジオKANVAによるカレッジ・サンティレールの増築

カナダ ケベックの南東部にあるモンサンティレールは、サンティレール山とリシュリュー川に囲まれてその歴史を紡いできた小さなコミュニティ。サンティレール市の北側に位置するカレッジ・サンティレールは、1964年に設立された歴史ある私立中等学校。自然の中に佇むキャンパスは、若い世代がのびのびと学べる、環境に恵まれた立地にある。

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Exterior facade punctuated with boxed windows and foliage pattern / Front view, Photo credit: James Brittain

これまでも何度か改築を行ってきたキャンパスだが、山の麓という恵まれた立地を最大限には活かしきれていない。四角い窓並び、水平線が強調される1960年代の建築要素が色濃く残るオリジナルの建物からは、川と草原、そして街への眺望が広がる。モントリオールの建築事務所KANVAによって新たに増築された部分は、これらの建築要素が語る個性を尊重し、直線性を取り入れると同時に周囲の景観に自然に溶け込んでいる。さらに、伝統的な教室や移動スペースのレイアウトは現代的なものへと変化させている。

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Exterior facade punctuated with boxed windows and foliage pattern / Side view, Photo credit: James Brittain

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Horizontal circulation space including an integrated multi-purpose tier, Photo credit: James Brittain

プロジェクトの要求を具体的に把握するため、KANVAのチームはまず現地を訪れた。ディスカッションや調整を重ねるためのワークショップを通してプロジェクトを進めるのがKANVAの手法であり、これはクライアントも巻き込んだプロジェクトにするために必要不可欠な工程でもある。また、現場の雰囲気に身を置くことで、クライアントの要求をつぶさに感じ取り、プロジェクトに繊細な考察を加えたり、ユーザーの個性を吹き込むことが可能になる。その結果、今回のプロジェクトの主要エレメントとして「教室の追加」「生徒のための部屋の追加」「芸術活動やパフォーマンスのための多目的スペースの追加」が決定された。

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Student moving through the horizontal circulation spaces on level 2, Photo credit: James Brittain

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Level 1 - Multifunctional subspace, Photo credit: James Brittain

さらに、友愛と協力を尊重する学校の理念と、自然に囲まれた環境にインスパイアされ、プロジェクトの性質を最もよく表している「木」をシンボルとした建築コンセプトが決められた。必要不可欠な要素であり、森の主役である木は、様々な繋がりを生む中心的な存在として捉える事ができる。広がる枝葉からはいくつもの可能性が生まれ、根元から枝の先を繋ぐ役割も果たす。そこには、生徒の成長に欠かせない以下の3つの要素が含まれている。

Extra(外):自然や外の空間だけでなく、そのさらに外側のコミュニティ、モンサンティレール市とのコネクション。生徒が社会における自分の役割を自覚し、キープレーヤーとして未来の社会を担う責任感を身につける。

Inter(相互):異なる個との交流や繋がり。大学に関係するあらゆる「個」との様々な関わり方を模索するなかで、コミュニティの中で調和しながら環境に賢く適応して生きていく術を身につける。

Intra(内):内なる自分との関わり。安心できる環境に身を置くことで自身の内側に目を向けることができ、そこから自身の学習能力を発見し、高めるだけでなく、好奇心や個性を育てることができる。

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Dyptic #4, Photo credit: James Brittain and KANVA

今回増築された部分は、コミュニケーションの場だけでなく自然と既存の建物とを繋げるものとしての役割も果たす。広く使われている穿孔の隙間は、縦にも横にも空気が循環するスペースを確保し、外との繋がりを強めている。明るくオーガニックなレイアウトは、透過性と不透過性、明確さと曖昧さのバランスを取るようにいくつもの層にまたがって構築されており、その結果、ヒューマンスケールの空間が完成している。

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Dyptic #2, Photo credit: James Brittain and KANVA

新しい空間では、繊細な思春期を経験する子どもたちが、効率的な学び方を習得して成熟していく中で、環境に配慮できる市民となるための方法を学んでいく。そして、生徒たちは子どもから大人へと成長し、他と共生する多元的な社会に生きるための社会性を身につけていくのである。「学びは私の中にある」という学校の理念がここに体現されている。

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Dyptic #3, Photo credit: James Brittain and KANVA

素材使いにも「木」のコンセプトからくる繋がりが見て取れる。木を多用していることに加え、外壁を覆うのは森をイメージした木の葉のパターンが施された構造である。斜めの線を強調したパターンは、外壁に遊びと深みをもたらす。リズミカルなデザインは、オリジナルの建物との対話を生み、周囲と一体となることに成功している。さらに、山を望む中庭は、守られた交流の場であり、自然と建物を繋げる役割を持つ。繋がりと進化を促す新校舎は、キャンパスを教育の場から豊かな人生経験を得る場へと変化させ、モンサンティレールの地に新たな風を吹き込んでいる。

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Details of the foliage pattern on the facade, Photo credit: James Brittain

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Dyptic #1, Photo credit: James Brittain and KANVA

KANVAについて

2003年設立のカンヴァは、モントリオールに拠点を置く、学際的な建築事務所。共同空間における最先端の思考、想像、描写、建築ができる15人の建築家が所属しており、数多くの賞や栄誉に輝いている。プロジェクトをアートと建築の対話を広げる機会として捉えており、全てのプロジェクトにおいて、建築物の在り方に疑問を投げかけ、その進化を促している。アート、科学、そして建築が、利用する人にとってよりよい空間を創り出すためのツールであると考える。カナダ王立建築学会より建築新人賞を受賞(2015年)、カナダ評議会より「適応の境界」に関する研究を評価されArts’ Prix de Rome賞を受賞(2017年)、翌年にはImagoプロジェクトがワールド・アーキテクチャー・フェスティバルにて受賞。ドバイで開催される2021-2022万博のカナダパビリオンのアートインスタレーションを担当している。直近では、モントリオールの自然史博物館「バイオドーム」を完成させている。