フィリピンのビーチリゾートにサステナブルなエコツーリズムを実現する「砂の城」の建築デザイン
フィリピンのカグバラット島に出現したのは、農業と漁業の盛んな地域文化の発展を促す新たなエコツーリズムを生み出す「砂の城」、カグバラット・サンド・クラスター。フィリピン人建築家ファン・カルロ・カルマ率いる、カルロ・カルマ・コンサルタンシーによるデザインでサステイナブルなエコツーリズムを実現する革新的で刺激的なアイデアに溢れた未来型の建築物である。
それぞれが独自の文化を発展させてきた7,641もの島からなる列島国家フィリピンにとって、地域住民と観光客の両方にとって利用価値のある施設の建設は非常に重要である。生態系を育みながら地域おこしのできる施設を目指し、カグバレット・サンド・クラスターはデザインされた。
プロジェクトの主要な目的は、カグバラット島のケソン市にある3.8ヘクタールの土地を農地にすることであった。サンゴをイメージした双曲線で描かれたクラスターは、この地の海洋生物の多様性と豊かなマリンライフを表現している。垂直にも水平にも展開可能なこのクラスターを組み立てていくことで、放射状の開発が進められる。
そうやって完成したのが、住居とファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)を実現するレストランが同居する多目的施設である。レストランは、地産食材の利用にこだわり、ノコギリガザミ(マッドクラブと呼ばれるカニ)の養殖も行っている。ノコギリガザミの養殖は、土壌侵食を防止するはたらきがあり、生息するマングローブの生態系を守る効果もあるとされている。また、「ハパ・ネット」と呼ばれる現地の漁業用のネットもデザインに採り入れられている。ネットで覆われた表面には、砂と土、泥が混ざり合い、新たな質感が生まれる。さらに、ハパ・ネットは、日差しや雨をしのぐ半透明の膜となり、ときには蚊帳となって、昼寝できるスペースを提供する。漁業用ネットというシンプルな実用性しかなかったハパ・ネットは、建物構造の重要な一要素であり、時間や空間に合わせて用途を変え、そこで生活する人々のあらゆる活動をサポートする多機能のツールへと変貌を遂げた。
自活したレジャー農業をイメージして進められた本プロジェクトは、このプロジェクトの為に特注された傘型のソーラー発電システムによる電力供給が可能で、自然換気による換気システムを広範囲に採用している。これらにより、建物内にいても自然物と加工物の境界線が曖昧になり、季節の移り変わりや気候の変化などを肌で感じることができる。海水に浸ってくつろげる洞窟や、泥のプールでは、未知の感覚体験が滞在客を待ちうけている。各階にはギャラリーやパフォーマンススペースも設置され、夜になると、暗闇を照らす燈台の役割も果たす。それはまるで、水中を明るく灯しながら浮かぶプランクトンのようにも見える。
カグバラット・サンド・クラスターは、ワールド・アーキテクチャー・コミュニティが主催する国際的アワード「WAFX 2021」のフードカテゴリーで受賞。また、2021年12月にポルトガルのリスボンで開催されるワールド・アーキテクチャー・フェスティバルの実験カテゴリーにおいて、ファイナリストに選ばれている。
カルロ・カルマ・コンサルタンシーについて
カルロ・カルマ・コンサルタンシーは、デザイン思考や建築活動の限界を押し広げることを目指し、2009年に設立された。理論家、アーティスト、建築家、エンジニアなど多様な人材が在籍し、フィリピンのアイデンティティを大事にしながら地域に密着した創造的な取組みを行っている。斬新な取組みにより、新たなライフスタイルを発案する意欲的な建築家に刺激を与え、謎めいたリゾート空間、ファウンド・オブジェ的に生まれ変わったアパート、商業機能促進の種蒔きとなるプロジェクトなど、夢を形にする活動を展開している。