復活プロジェクトによりセーヌ川の底から引き上げに成功

近代建築の巨匠として知られるル・コルビュジエがリノベーションを手掛け、弟子の日本人建築家前川國男が担当したコンクリート船アジール・フロッタンが2020年パリで引き上げに成功した。アジール・フロッタンは、第一次世界大戦後のパリ市内にいた難民の避難所として、ル・コルビュジエがリノベーションした船のプロジェクト名。もとは石炭を運搬するコンクリート船であったが、救世軍の依頼により、1929年にル・コルビュジエがリノベーションを担当し、1995年までさまざまな難民のために使われ続けてきた。

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アジール・フロッタン

その後、老朽化により幾度も廃船の危機に晒されるが、2006年にはパリ在住の有志5人が救世軍から船を譲り受け、補修工事がスタート。1929年当時、本プロジェクトを担当したのが、ル・コルビュジエに学び、その後日本における近代建築の原点となった建築家前川國男だったという縁から、2006年に日仏共同の修復プロジェクトが開始。2008年には建築家遠藤秀平による工事用シェルターの設計、2017年には再生プロジェクトが始動し、日本企業による桟橋の寄贈が進められてきた。

ところが、2018年2月のセーヌ川の増水により、船体が水没。一時はプロジェクトが暗礁に乗り上げたものの、2019年、前川國男を含む3人の建築家が共同設計した唯一の建物としても知られる国際文化会館が助成・協力を決定。日本建築設計学会により「アジール・フロッタン復活プロジェクト」が始動し、ついに船体の引き上げに成功した。

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ル・コルビュジエは1929年の改修の際、箱型の船体に、柱と屋根、水平窓を加える増築を行い、近代建築の理想型としての内部空間を実現した。まさにコルビュジエが提言した「近代建築の5原則」を体現するものであり、2016年世界遺産となった代表作「サヴォア邸」の設計に先だって実現した建築史上、大変重要な作品と位置づけられる。また、当時最先端の技術が搭載されていた客船や飛行機、クルマなどに着目していたコルビュジエが手掛けた唯一の“動く建築”という点でも注目される。

今後は船体補修と内部の修復を行い、ル・コルビュジエのオリジナルデザインを復元した文化施設として再生し、2022年秋の公開を目指す。